だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





いつも綺麗にしてある櫻井さんの部屋は、広いリビングとその他に二つの部屋がある。

リビングは殺風景で、必要最低限のものしか置かれていない。

焦げ茶色の革のソファーに腰かける。


ジャケットを脱いでネクタイをはずした櫻井さんが、寝室からリビングに戻ってきた。




「先に飲んで待ってるか。ビールならあるぞ」


「それじゃあ、いただきます」




キッチンへ向かい、缶ビールを二つ手に持って来た櫻井さんがベランダを指差す。

見ると雨もほとんど降っていない程度だったので、一緒にベランダで乾杯することにした。



窓を開けると、湿っぽい風が部屋の中に入ってくる。

まるで誰かが私の頬を撫でるように。




「乾杯」


「乾杯」




二人でかちりと缶をあわせる。

楽しそうに笑いながら、隣でごくごくと喉を鳴らす櫻井さんと一緒にビールを流し込む。


今ある現実に必死に目を向けていたけれど、さっきの夢のことが頭から離れなかった。

色々なものを流し込むように、ゆっくりと、でも確実にビールを呑み込んでいく。



隣で、櫻井さんはタバコに火をつけていた。

それをじっと見ていると、ふいに目が合う。


なんだかずっと見ていたみたいで恥ずかしくなったが、櫻井さんが真剣な目をしていたので目線を外せなくなってしまった。



先に目線を外したのは、櫻井さんだった。

タバコを吸い込んで白い煙をベランダの外に向かって吐き出した後、櫻井さんはそのまま雲に覆われた空を見つめた。




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