だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「五月雨が梅雨のことだと、知っているんですね。」
「授業で習わなかったか?確か、高校くらいだったと思うけど。」
そう言って柔らかく笑う。
目の前のこの人の一挙一動に、反応しているのは私のほうかもしれない。
濡れたベランダの手すりにお構いなしに肘を掛ける姿を見て、いつもより幼さを感じた。
空になりかけた缶ビールをぐい、と飲み込んでいく。
色々なものを流し込みたくて。
「・・・なぁ、しぐれ」
「なんですか?」
呼ばれて櫻井さんを見ると、とても優しい顔で笑っている。
その顔だけで『本当に嬉しい』と伝えられているようだった。
何がそんなに嬉しいことなのか、私にはわからなかった。
櫻井さんが何か言いたげだったので、私はそのまま待っていた。
ただ、息すら苦しいまま、その場に立ちつくした。
――――――ピンポーン――――――
二人でリビングの中を振り向いた。
タイミングがいいのか、悪いのか。
森川達が到着したみたいだ。
多分大量の飲み物と、『あたりめ』だの『チータラ』だのを買い込んだ袋を持っているに違いない。
そして、今夜泊まる気満々の彼らは、明日の朝ご飯も買っているに違いなかった。
「みんな、着いたみたいですね」
「あぁ」