だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





「時雨、好きだ」








放たれた言葉と、玄関のドアが開かれる音。

どちらが早かっただろう。


鳴り止まない心臓を、抑えることは出来なかった。



立ち尽くしている私の横を、颯爽と通り抜けて玄関に向かう櫻井さん。



お邪魔しまーす、と陽気な声をあげてガヤガヤと入ってくる後輩達に気付かれないように、顔をぱんっと叩いた。

小乱れの気配のする空気を、これ以上部屋に入れないために、窓をからからと閉める。


リビングの扉が開いたときには、冷静を装えるまでになっていた。




「あっ、時雨さん!飲みますよー!」




松山の声に、にっこりと笑って応える。

さっきまでへろへろしていた若者二人は、買い物で元気を取り戻したようだ。


それとは逆に、森川は少しぐったりしている。

買出しでパワーを吸い取られたのかもしれない、と思ってくすりと笑いが込み上げる。



森川と並んで、櫻井さんがリビングに戻ってくる。

まだ顔を合わせられるほど冷静ではないので、松山と篠木の袋の中身を一緒にあさるフリをした。


袋の中には案の定、明日の朝ご飯になりそうな、お弁当やサンドイッチ、カップラーメンなどが買い込まれていた。




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