だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版





横でも笑う気配がしたので、思わず櫻井さんの方を向いてしまった。

いつも通りに笑えない私を見て、意地悪く、でも楽しそうに笑顔を返してくる。

それなのに、どこか穏やかでありのままを見せてくれているようにも見える。



どうしてこんな顔が出来るんだろうと、少し悔しい気持ちになりムッとするが、そんな表情も全く無意味のようだ。



意識して初めて気付く。

この人は、私にこんなにも無防備な顔を見せてくれていたことに。

自分を曝け出すことに躊躇がなく、それを惜しみなく私に向けてくれていることに。



どちらからともなく、リビングへ向かおうと足を進める。

すると、後ろからついてきた櫻井さんが右の耳元で小さく囁いた。





「さっき言ったことは忘れるなよ。でも今は、普通にしてろ」





そう言って私を追い越して、リビングのソファーにどかっと座る。

何事もなかったように、私はソファーのすぐ近くの床にぺたりと座る。


ポーカーフェイスなんて、全然得意じゃない。

だからこそ、一刻も早くお酒を呑みたかった。



厚くなった右側の耳に手を当てながら、みんなの乾杯の音頭にあわせて缶を重ねる。

安っぽいカチカチという音とともに、二次会がスタートした。




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