だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
どんどん空いていくお酒に、その場にいる全員が酔い始めて徐々に眠りについていった。
気が付くと、みんなスーツのままでもお構いなしに床に寝転がっていて。
松山と篠木は大の字になって倒れ込んでしまっていた。
森川はソファーに凭れたまま寝息を立て。
私は、そのソファーの上に横になっていた。
ウトウトしていると、森川と櫻井さん二人から『寝てしまえ』と言われたからだ。
その言葉に甘えてソファーを占領させてもらっている。
こんな風に雑魚寝をしても大丈夫だと、私達は全員知っている。
だって、タオルケットだのバスタオルだのを掛けてくれる人がいるから。
櫻井さんは、そういう人だ。
床にみんなで寝ても、必ず何かを掛けてくれる。
自宅にみんなを読んだ時、この人は絶対に潰れたりしない。
まぁ、水鳥さんと部長がコンビで悪ノリをしない限りは。
自宅にいるときのほうが、周りに気を使うなんておかしな話だけれど、そういうものだと思う。
なんだか、わかる気がする。
それを知っているからこそ、私達は楽しく飲めるのだろう。
薄れゆく意識の中で、温かいものが優しく身体の上に掛けられる。
髪の毛をなぞる感触が、やっぱり胸を締め付ける。
ベランダで告白された時。
初めて聴いた櫻井さんの『時雨』と漢字の響きで呼ぶ声。
きっと誰にも、その違いなど分からないと想うけれど、私には分かる。
漢字でしっかりと呼ぶ、大切にされた私の名前。
その声ばかりが頭から離れずにいた。