だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「ホントに。山本さんのその元気な声、廊下で響かせて頂いてかまわないですから」
「確かに。その方が、気合あいりますから」
「・・・はぁ。どうもスミマセン。騒がしくて」
「いいえ。では行ってきます」
「あ、はい!行ってらっしゃい」
部屋を出て行くスタッフさんにも声をかけられ、なんだか恐縮してしまった。
二人の男性スタッフを送り出し、櫻井さんの方へ目線を向ける。
それを見た櫻井さんがおでこを抑えている私の手をそっとよけて、やさしくおでこに触る。
こんなことするくらいなら、最初からデコピンなんてしなければいいのに。
「気張らずいつも通りでいい。しぐれが笑えば、仕事は上手く回ってくれるだろう」
おでこに触れる冷たい手の感覚と優しい言葉に、気が緩んでしまった。
自分では気付いていなかった。
でも、かなり気を張って仕事をしていたんだな、と思う。
おでこに当てられた手が、少し瞼を覆うように下げられる。
目頭が熱くなるのを感じたけれど、なんだか悔しいので必死に瞼を閉じていた。
「病み上がりなんだし、無理するな」
優しい言葉なんて、かけないでよ。
気が緩んでしまいそうになるから。
でも、まだフィナーレまでやることは山積みだ。
今出来る自分の仕事を、まずはしっかりとこなさなくてはいけない。
落ち込むのは、終わってからでいい。