だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
ふと私が足を止めたのは、いつも使っている香水のメーカーだった。
甘いいつもの香りに、少し爽やかさが混ざったような香り。
思わず手に取ってしまった。
グレープフルーツの香りを足したそれは、夏にぴったりの涼しげなものだった。
今日もつけている香水の上に重ねてみる。
手首にほんのりと広がるグレープフルーツが、鼻先をかすめた。
「いい香り」
独り言のように呟くと、店員の綺麗な女の人が近づいてきた。
それは相手に圧迫感を与えないさりげなさで、気付けば目の前に立っていた、という感じだった。
「いつもお使いですか?」
「あ、はい。そうなんです」
「そうでしたか。ありがとうございます」
さりげなく発せられたその声は、とても柔らかい声をしていた。
水鳥さんと同じくらいであろうこの人は、少し可愛らしい感じをまとっていた。
「グレープフルーツ、ですか?夏っぽくて素敵ですね。」
「そう言って頂けると光栄です。ただ、爽やかな分香りが飛びやすいので、ボディクリームと一緒に使って頂くのがいいかもしれません」
そう言って、店員さんは嬉しそうに笑った。
確かに、すぐに消えてしまいそうな香りをしている。
ボディクリームは前に限定で買った時、もらったのが残っていたはずだ。
いつもの香水も残りが少なくなっているから、新しいのを買ってもいいかもしれない。