だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
決めかねている私に何も言わずに待ってくれる店員さんが、とても嬉しかった。
目をあげて困った顔をしていると、にっこり笑っていた。
ゆっくりどうぞ、と小さく言って、その場をそっと離れて行った。
普通なら、買ってもらうまでその場に留まるだろうに。
むしろ、私がスタッフに指導をする時はそうさせているので、良くわかる。
この人の接客は、どちらかというと『有り得ない』部類なのだ。
けれど、それをさりげなく出来るのは、この人の心遣いだと思った。
この人の接客は私の気持ちを察してくれて、それに私はとても『嬉しい』と想ったのだ。
そんなことを考えながら真剣に悩んでいると、後ろに人影を感じた。
「そんなに悩んでるなら、買えばいいだろう」
「ちょっと。気配無く近づくのやめてよね」
気が付くと横に森川がいて、私の手元を覗き込んでいた。
急に声をかけられてビクリとしたけれど、森川はそんなこと気にしていないようだった。
「買わないのか?」
「ちょっと爽やか過ぎるかな、って思ってさ」
それを聞いた森川はそうか?と小さく言って首を傾げていた。
私の手の中から香水をひょいととりあげて、匂いを確かめていた。
その姿が可笑しくて、くすくすと笑ってしまった。
探し物をしている犬みたいな動き。
森川はどこか犬っぽい。
じっと見つめて、何かを待ってることも多い。
真面目で従順。
見た目は大きくてちょっと怖いけど、中身は大人しい。
ゴールデンレトリバーみたい。