だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「これの小さいサイズ、貰えますか」
私が森川の犬っぽさを考えていると、隣でさらりとそんな事を言い出した。
びっくりして、え?と小さく言った時には店員さんが小さくお辞儀をして商品を用意しに行ってしまった。
「ちょっと、待って!森川、私まだ買うって決めてないよ」
「いつも使ってるのとほとんど同じだろ?今日のお礼だ」
変なところで強引なんだから。
けれど、実際悩んでいたのは事実なのでありがたく買ってもらうことにした。
そのかわり、夜ご飯に誘って奢ってあげようと決めた。
ふと、森川がさっき言った言葉を思い出す。
『いつも使ってるのとほとんど同じだろ』
森川と香水の話をしたことはないはずだ。
なのに、森川は私の使っている香水を知っていた。
近くにいればわかるのかもしれないけれど、そんなことを気にする人は少ない気がする。
私は胸の奥で、ざわざわと音が鳴るのを聴いた。
けれど、その正体が何かを確かめたくなくて蓋をした。
そして、森川を見上げた。
「どうかしたか?」
私が見上げているのに気が付いて、怪訝な顔をした。
そしてぽすっと私の頭に手を置いて、そのままぽんぽんと叩く。
森川の手はいつも熱い。
頭の上が、ほんのりと熱を持つようだった。