だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「ねぇ・・・、どうして私の香水の匂い、知ってるの・・・?」
「あぁ、それか」
「ねぇ、どうして?」
「・・・お前の香水は前の彼女と同じなんだ。だから、すぐにわかる」
そう言って、にこりと笑う。
少し懐かしそうに。
そして、少し苦しそうに。
詰め寄った私の表情を見て、何かに怯えている私の気持ちを先読みしてくれたのだろう。
無口な分、人の気持ちを読むのが得意な森川。
言わなくていい事を言わせてしまったような気がして、申し訳ない気持ちになってしまった。
「ごめん、そんなこと言わせて・・・」
「いいさ、別に」
「ありがと」
「気にするな」
間髪入れずに森川は言った。
きっと、私が不安定になっているのを、森川は気付いてる。
もしかしたら櫻井さんと何かあった、なんてことにも気付いてるのかもしれない。
それもあって、今日誘ってくれたのかもな、と考えると申し訳ない反面、有り難いことだと思った。
ほんの少しだけ、いたたまれない気持ちにもなるけれど。
「お待たせ致しました」
さっきの店員さんが、綺麗に包んだ香水を紙袋に入れて手渡してくれた。
白い袋にピンクのリボンをかけられたそれを、受け取ったのは森川だった。
「ありがとうございます。後で自分で渡したいので、預かります」
そう言った森川は営業スマイルを浮かべていた。
櫻井さんの教えがしっかり染み付いている気がして、なんだか笑えてきた。