だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
「では、どうぞ。素敵な方ですね」
「え、えぇっっ!!いや、違うんですよ!!」
「恥ずかしがるなよ」
「ちょっと!!変なこと言わないでよっ!」
「フフフ。またお二人でお越しになってくださいね」
「ありがとうございます」
「ちょっ・・・!あのっ!今度は一人で来ますからっ!」
「えぇ。お待ちしています」
丁寧にお辞儀をする店員さんに会釈をして、森川は私を置いてスタスタと歩いて行く。
それを真っ赤になって追いかけながら、私達は店を後にした。
森川は私を振り返ることなく、肩を揺らして笑っていた。
それは会社では中々見られない森川の素顔で、そんなモノを見せられたら怒る気力も失せてしまった。
「もう・・・。やめてよね、からかうの」
「悪い悪い。しぐれの反応が、あまりにも面白いもんだから、つい」
そう言って振り向いた森川は、とても幼い顔をして笑っている。
森川は『顔を崩して笑う』タイプの人らしく、その笑顔はとてもあどけない。
結構好きな笑い方だな、と想うとなんでも許せてしまうもので、仕方がないかとつられて笑っていた。
ぷらぷらと歩きながら、出されている広告についてあれこれと議論をしていく。
『色味が明るすぎる』だの、『あの会社のコピー誰が書いたんだろう』だの、『匂いつきの広告って新鮮だ』だの。
買い物をしながらたっぷり三時間掛けて歩き回ったので、二人ともさすがに少し疲れが見えていた。
それでも、大きな広告をゆっくり見る機会は大変重要なことで、森川はとても満足そうに見えた。