誠の華
「……グルル」


山崎の気配に気付いたのか
伏せていた顔を上げ、
牙を剥き出して威嚇する獣。

あれは…

(……狼?)


任務で山を登る際に
狼を何度か見たことがある山崎だが
今目の前にいるような狼は見たことがなかった。

綺麗な白銀色の毛並み。透き通った青い瞳。
どこか神々しい気配を放っていた。

ふと、腹の部分を見ると赤い液体が付着していた。

怪我をしているのか……。


「お前。…怪我をしているのか?」


少し離れている狼に聞こえるように言うと、
狼は威嚇を止め疑うような眼差しを向ける。

「俺は山崎丞。医者ではないが、手当てくらいはできる。
もし、お前が良ければ手当てをさせてほしい」


狼の瞳を真っ直ぐ見つめる。

山崎は新撰組の監察方だが、医療班でもある。
捕り物などの際に怪我人を手当てしている
山崎にとって怪我の手当てなど朝飯前。
だが、獣相手となると心を開いてもらわないと
体を触らせてもらえない。
手当て前の問題だ。

すると、山崎の言葉を理解したように
顔を伏せ

「…クゥン」

甘えたような声で鳴いた。

目を見張ったが、手当てをしようと足を進め
狼の隣に膝をつき背負っていた風呂敷から
包帯と薬を取り出した。

「少し滲みるががまんしてくれ」

山崎の言葉に理解したようにクゥンと鳴いた狼の
頭を優しく撫でるとクゥンクゥンと甘えてくる。
その姿にフッと頬を緩めた。
怪我をしている腹の部分に薬を塗ると
ビクッと震え

「すまない。もう少し頑張ってくれ」

「クゥン…」



安心させるように背を撫でると
左右に尻尾を振った。
回りに人が来ていないか気配を探りながら
慎重に怪我の手当てを始めた。



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