Bussiness Trip
「あったまくる。何で戸上と同じベッドで目覚めるわけ、もう、信じらんない」
怒りながら、雪乃は戸上の部屋に入り、戸上の旅行鞄を隣の部屋の前に放り出す。
なんで戸上はあんなに落ち着いていられるのだろう、自分はさっきから心臓の高鳴りが止まらないというのに。
だいたい恋人でもない女性を自分のベッドに引き入れるなんて、本当に信じられない。
あのままソファーで一晩寝ていたら、風邪を引いていたかもしれないし、体も固まって辛かっただろう。
戸上に深い意味なんて全くなくて、ただの親切心だということもよくわかっている。それでも、平常心でなんていられない。
郷野さんのことだって、一人だったら絶対についてなんか行かない。
戸上が一緒に行ってくれたから、だから行っただけなのに、あんな言い方しなくても。
あんな軽そうな男に心惹かれるわけなんかないじゃない。
ぐるぐると思考を続ける頭で、どうにか身支度を整えて、部屋を出ると、扉の前ですでに戸上が待っていた。
昨日、自分が脱がせたスーツを着ている戸上を、いつもと違う目で見てしまう。
たかがあれくらいのことで変に意識してしまう自分が情けない。
忘れようと首をぶるぶると振った。
「行くか?」
雪乃は戸上を無視してさっさとエレベーターに向かう。
慌てて戸上が追いついて、無言のまま、フロントでチェックアウトの手続きをする。
「おい、朝飯どうする?」
「いらない」
そう言って、さっさとホテルを出る。
「待てよ!」
戸上が追いかけて来たが、今は何も話したくない気分だ。
いや、恥ずかしすぎて、さっきから戸上の顔がまともに見られない。