Bussiness Trip
そこへ、仲居がやってきて、「あらまあ」と声をあげる。
「すみません、この人、ちょっと酔っちゃったみたいで。冷たい水とおしぼり、もらえますか?」
「はい、ただいま」
「なあ」
「んー?」
雪乃が緊張感のかけらもない声で答える。
「おまえ、誰にでもこんなことすんのかよ?」
「え、なに?」
雪乃が耳を寄せる。
ふわりと淡いオーデコロンの香りが鼻先をかすめた。
「いや、何でもない」
雪乃が計算でこんなことができる女じゃないことは百も承知している。
そして、同僚に対する親切心以上の深い意味がないだろうことも。