砂漠の夜の幻想奇談
その時、丁度その外庭を肉屋が通り過ぎていった。
肉屋は屠殺(トサツ)したばかりの子牛を運んでいる。
おそらく王宮の料理場に届けに行くのだろう。
それを少し離れた木の上から真っ黒な大烏が見つめている。
この何でもない日常の光景を眺めていた王妃様は、独り言を呟いた。
「あの子牛の血のように赤い頬…それから烏のように真っ黒な髪がいいわね」
理想の娘像を思い浮かべ溜息を一つ。
「嗚呼…娘を授かれるなら、十二人の息子全員をあげてもいいのに…」
その時だった。
「愚かしい女よ。その罪深い願いを叶えてやろうか?」
王者のように凛とした高い声がしたかと思うと、目の前に美しい異国の衣をまとった背の高い女性が現れた。