砂漠の夜の幻想奇談
「きゃああ!!」
一瞬だった。
腕に閉じ込めていたはずのサフィーアが、スルリと両腕の間から抜け落ちた。
足を引っ張られ地面に落とされるサフィーア。
「痛っ…!」
「ほお。こいつぁ、いい女じゃねぇか」
「ひ…サフィーア様!」
カシェルダはとっさに呼び方を変えた。
姫と知られるのは得策ではない。
わざわざ高貴な身分だと教えて身代金要求などされては、さらに面倒なことになる。
「いい値で売れそうだなぁ。ん?」
盗賊達の目的はサフィーアの命ではない。
よって、誰かに売られたならば取り返せばいい話なのだ。
けれど、護衛官としてプライドの高いカシェルダにとっては、姫が売られること自体あってはならない。