砂漠の夜の幻想奇談
第四話:売られた姫君
夜から明け方にかけて、サフィーアはラクダに揺られながら砂漠を通り過ぎた。
手綱を握るのは頼りになる護衛官ではない。
砂漠の盗賊の頭。
粗野なベドウィン人だ。
(カシェルダ…カシェルダが…)
サフィーアは泣いていた。
自分のせいでカシェルダが傷ついた。
いや、最悪死んでいるかもしれない。
これから自分の身にふりかかる災難よりも、カシェルダのことを思うと涙が止まらない。
(ごめんなさい!ごめんなさい…カシェルダ…!)
その時、荒々しい声が飛んできた。
「泣くのやめねぇか!ムチでひっぱたかれてぇのか?」
サフィーアの身体がビクリと震えた。
アラビア語だったが、意味は理解できた。
(こ…わいっ…)
ひくひくと上がってしまう泣き声を押さえようと、唇を噛み締める。
後ろ手に縛られているため、手は使えない。
サフィーアは必死で恐怖に耐えた。
こうして二人がダマスに到着したのは、朝日が昇ったすぐ後だった。