砂漠の夜の幻想奇談
ダマスに着いて早々、盗賊は宿屋(カーン)に宿を取った。
宿屋の名前は“帝王館(スルターニ)”。
帝王などと名付けられているわりには、部屋は質素なものだった。
「ほらよ」
部屋に入るなり、盗賊はサフィーアに小さなパン菓子を差し出した。
「朝飯だ」
言われて気づいた。
かなりお腹が減っている。
(昨夜から何も食べてないものね)
サフィーアは素直にパン菓子を受け取ろうとしたが、できなかった。
「縄を外してちょうだい。受け取れないわ」
「あ?ああ、そうか。そういや縛ってたな」
納得して解いてくれるかと思いきや、なんと彼はテーブルにパン菓子を乗せて、こう言った。
「ここ置いとくからな。食っとけよ」