砂漠の夜の幻想奇談

切なげな彼の声。

諦めてくれたかと思いきや、王子はとんでもないことを言い出した。


「なら、君は祖国へ帰れないね」


「えっ!?どうして!?」


驚きが大き過ぎて彼女は振り返った。

シャールカーンの綺麗な青い瞳と視線がぶつかる。

「当たり前だよ。だって君は俺に買われた女奴隷だ。奴隷釈放証書を作成して自由人の身分に戻らない限り、俺のもの」

王子はサフィーアの頬に軽く口づけた。

そして、満面の笑顔でこう囁く。

「思いがけずにまた舞い降りてきた可愛い天女を、俺が天に帰すと思うかな?」

答えは否だ。

別に帰してやれないこともないが、わざわざ買った奴隷を祖国に帰す馬鹿はいない。

「わ、私は奴隷じゃないわ!」

「残念だね。奴隷商人に売られた時点で君の身分は下がったんだよ。それに、奴隷商人から君を買ったという証拠書類がバルマキーの手元にあるだろう」


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