砂漠の夜の幻想奇談
「眠ったか…」
歌を止めた王子が静かに身を起こす。
彼は穏やかに眠るサフィーアを見つめながら、母親の言葉を思い出していた。
――シャール、貴方はこの歌のような恋をしてごらんなさい
「恋、か…」
手が届きそうで届かない、この焦れったさに左右される不安定な心を恋心というのだろうか。
ならば…。
「サフィーア、俺は今、生まれて初めて恋をしているかもしれない」
――君に…
囁かれた思いは、まどろみの中にいるサフィーアに届くことはなかった。