砂漠の夜の幻想奇談
「勘違いであって欲しいが、まさかお前は姫に恋情を抱いているのか?」
「は…?」
唐突に問われ、素っ頓狂な声が出た。
「でなければ、余程奴隷思いの主人なのか…。まあ、どちらにせよ姫に対して体を張れることは理解した」
するとカシェルダは、乱暴に短剣からシャールカーンの手を引きはがした。
指は失わずに済んだが、手の平はかなり血みどろだ。
「譲れないものがあると言うなら、一つ提案してやろう」
シャールカーンの上から退くと、カシェルダは立ち上がって短剣を構える。
「正式に俺と決闘しろ。姫を賭けて」
(カシェルダ!?何を言ってるの!?連れて帰ってくれるんじゃなかったの!?)
サフィーアが不安げに見上げると、頼もしい護衛官は安心させるように微笑んでみせた。
「このまま彼が諦めるとは思えません。ですから邪魔な害虫は潰して帰りましょう。大丈夫、私が勝ちます」