砂漠の夜の幻想奇談

「いいよ…。別に答えを求めたわけじゃないんだ。ただ、少し…心にひっかかっただけだから…」

背中を向けられたことで、サフィーアから彼の表情は見えない。

その声は微かに震えていた。


(ごめんなさい…シャール。私にも、よくわからないの)


あの時、一瞬だけ脳裏をよぎったシャールカーンの姿。


(離れると思ったら、ちょっぴり寂しかった…。それだけだったのに…)


今は違う。



――俺にだって……譲れないものはある!!



そう叫んで、決闘に挑んだ王子様。

自分では止めることもできずにハラハラしながら見守って、二人の無事を祈ってた。


(シャールにも死んでほしくなかったの…。カシェルダに殺されなくて、本当に良かった…)


目の前にいるシャールカーンの背中に、ギュッと抱き着きたい。

今は、そう思ってしまう。


不意に、シャールカーンが星空を見上げながら歌い出した。

「あなたを、思うたび

我が心は…

砕かれて、揺られて

千々(チヂ)とはなりぬ…

心の渇きを、癒す君よ

その輝く眼(マナコ)に…

私を映してくれ

愛しさ募る

永久(トワ)に、切なくて…


もしも千の夜があなたを、隠そうとも

この心は、永遠に、あなたに捧ぐ

夜明けを待ち続け…」


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