砂漠の夜の幻想奇談
「今まで、詩の意味に共感したことは一度だってなかったけれど…」
頬にそっと触れたのは、彼女を引き留めたくて傷ついた手。
「今は……少しだけ…」
不自然に途切れた言葉の続きは、少々強引に重なった唇に引き継がれた。
(シャー、ル…!?)
今までの口づけとは何かが違う。
懇願にも似た切なさと苦悩が垣間見える。
(押し返さなきゃ…!)
しかし、突き放せなかった。
拒んだら彼が泣いてしまう。
なぜか、そんな気がした。
「サフィーア…。君を引き留めたこと、後悔はしていない」
頬を紅潮させ肩で息をしているサフィーアを見守りつつ、シャールカーンは窓辺からゆっくりと離れていった。
(シャール…)
去り際に彼が残したものは、誘惑に長けた薔薇の残り香。