砂漠の夜の幻想奇談
「サフィーア、おはよう。今日も汝の上に平安あれ」
朝一番、サフィーアの部屋に入ってきたのはシャールカーンだった。
まだ眠そうな顔をしたサフィーアに擦り寄ってくるのはいつものこと。
(うう~…離れて欲しいわ…!)
あの切ない口づけを受け入れた夜以来、彼を見るだけで鼓動が速くなるから困りものだ。
ましてや擦り寄られると無意識に身体が強張ってしまう。
(私…どうしたのかしら…。シャールを意識してるつもりなんてないのに…)
もんもんとしているとドニヤが部屋に二人分の食事を運んできた。
シャールカーンも一緒に食べるため、サフィーアの隣に座り水盤で手を洗う――と思いきや、今日の彼はいつもと違った。
普段通りサフィーアの横に腰掛けるも、食事に手をつけようとしない。
よく見たら食事は一人分の量だった。
(あれ?もしかしてシャールは、もう食べちゃったとか?)
疑問に思って彼の目を見つめれば、ふわりとした微笑が返ってきた。
「どうしたのかな?熱い視線で俺を見つめて」
どうしたと問いたいのはこちらの方なのだが、シャールカーンには通じない。
美しい笑顔を見せられて顔を紅くしながらも、仕方なくサフィーアは筆を持った。