砂漠の夜の幻想奇談
意思疎通の手助けとしてバルマキーからもらった紙と筆。
サフィーアは常にそれらを傍に置くようにしていた。
サラサラとラテン語を書き、王子に見せる。
「ん?なになに……貴方は、食べない、のか…?ああ、そういえば言ってなかったかな。今日からラマダーンなんだよ」
(ラマダーン?)
不思議そうに首を傾げるサフィーアを可愛く思いながら、シャールカーンはラマダーンについて説明した。
「我々イスラム教徒が断食する時期をラマダーンと言うんだよ。ラマダーンが始まったら基本的に食事はしない。日没後と日の出前に軽く食べる程度かな」
断食。
聞き慣れない言葉にサフィーアは目を点にした。
キリスト教は食を断つ行為などしないため、サラッと「断食期間だ」と言われてもピンとこない。