砂漠の夜の幻想奇談
「知り合いだが良い印象はない!サフィーア姫にまとわり付く煩わしいハエだ」
(カシェルダ!ダハナシュのおかげで兄上達の居場所がわかったのに…。ちょっと悪く言い過ぎよ…!)
心の中で言ってみたものの、サフィーアの弁護はこの場の誰にも通じずに終わった。
「姫よ。久しぶりだな。昨夜の寝姿も美しかったぞ。さすが、我が美の女主人」
蕩けるような微笑を浮かべてダハナシュがサフィーアの顔を覗き込んだ。
ちゃっかり手を握ることも忘れない。
ほんのり頬を赤らめるサフィーアを見てシャールカーンは声を低めた。
「……カシェルダ、本当の敵とはこいつのことかな?」
「正しくはないが、間違ってもいない」
その答えを聞いてシャールカーンも、手に握っていた短剣の鞘を抜いた。