砂漠の夜の幻想奇談


 バグダードまでの旅仕度を済ませ、ラクダの背中に荷物を乗せる。

若い侍女やお付きの護衛官達が働くのを横目に、老婆ダリラはカンマカーンと同じ輿に乗り込んだ。


(やれやれ、また失敗か…)


街で使えそうなゴロツキを集め、刺客として差し向けたが、シャールカーン達に邪魔されてしまった。

以前も砂漠でシャールカーンを仕留め損なっていたため、今度こそ失敗するわけにはいかなかったのだが…。

「ハァ…」

「どうしたの?ダリラ」

隣にいるカンマカーンが顔を覗き込んでくる。

「いえ…また砂漠の旅が続くかと思うと、憂鬱になってしまいまして。年寄りにはきついですからねぇ」

答えつつダリラは違うことを考えていた。


(けれど…あの娘をバキータの檻に誘い込んだのは正解だったねぇ)


おかげでシャールカーンが大怪我を負った。

どうせなら死んで欲しかったが、まあ良い。


(いずれ必ず殺してやる。そして、王家の血筋はカンマカーン王子が繋ぐのだ!)


胸に憎しみと野望を秘めながら「災厄の母」は妖しく笑んだ。






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