砂漠の夜の幻想奇談
「兄上…」
懐かしそうに目を細めるシャールカーン。
とその時、唐突に琵琶(ウーディー)の音色が響いた。
そして、広間の中央に歌うたいの女が現れる。
――現し世と生を楽しめ。何となれば、現し世はとどまるとも汝が生はとどまらざれば
小鳥の囀りのような声が耳に心地好い。
――生を愛し、生を楽しめ。幸福はただひと時ぞ、急げやよ!
「ふむ。今宵の歌い手も素晴らしい」
オマル王が満足げに聞き惚れる。
「そういえば、ノーズハトゥ。先程お前も詩を吟唱していたね。歌ってみなさい」
王妹フェトナーが自分の娘をいきなり指名した。
これに慌てるノーズハトゥ。
「そんな…!母上、このような宴の場で、私には荷が重過ぎます」
「何を謙遜しているのだ!良いから歌ってみなさい」
間違えたって誰も責めはしない。
瞳でそう語る母親に負け、ノーズハトゥザマーンは緊張気味に歌い出した。