砂漠の夜の幻想奇談
――微風舞いつつ立って、牧場を過ぎて我がもとに到る。我はその香にこれを知る。その愛撫の我が髪に止まるより早く
愛らしい声が一同の耳に届く。
緊張して少し震えているが、そこがまた何とも魅力的だ。
――おお、優しき微風よ、来たれ!小鳥らは歌う
(素敵な声…いいな)
サフィーアがウットリしていると、頭上からシャールカーンの独り言が聞こえた。
「さすがノーズハトゥ…。美しいね」
(えっ……)
パッと彼を見上げる。
シャールカーンの眼差しはノーズハトゥザマーンに釘付けだった。
(シャールが言ったのは……声のことよね…?)
なぜか急に激しい不安が押し寄せ、胸を押さえるサフィーア。
――ああ、愛しき者よ。君を我が腕(カイナ)に捉え得ばや、恋する人の頭(カシラ)をばおのが胸に閉じこむる恋人のごとく…!
ノーズハトゥの方を見れば、彼女もシャールカーンの瞳を真っ直ぐ見つめていた。