砂漠の夜の幻想奇談
(何、これ……。いや…嫌よ…!シャール、見ないで…!あの人を見ないで!!)
露わになる独占欲。
シャールカーンが他の女性を見つめることが、これ程までに悲しくて苦しい。
(お願いシャール…!私を…私を見て…!!)
声に出して叫びたかった。
しかし、サフィーアにはそれが敵わない。
喉まで出かかっている想いをやっとのことで飲み込む。
「素晴らしかったよ。また聞きたいな」
吟唱が終わると、シャールカーンはとびきりの微笑を浮かべてノーズハトゥに賛辞を贈った。
「ありがたき幸せです。シャールカーン王子」
頬を赤らめながら恭しく頭(コウベ)を垂れるノーズハトゥザマーン。
「本当に上達したな、ノーズハトゥ。そうだ!サフィーア姫はどうかな?吟唱の心得は?」
上機嫌の王様に尋ねられ、ビクリと肩が震える。
すかさずシャールカーンが口を挟んだ。
「父上、申し上げたでしょう。サフィーアは口が利けません」
「おおっ!すまない!酒が入り、つい失念していた!」
本当に悪気はなさそうだ。
わかってはいたが、サフィーアは酷く泣きたくなった。
(……声、出したい…)
発声を禁じられてから初めてそう強く思った。
静かに頬を伝う、ひと雫。
(私だって……歌えるもん…)
しかし今の彼女は、声を奪われたシェヘラザード。