砂漠の夜の幻想奇談
第十二話:愛と憎しみ、嫉妬と苦悩
翌日、サフィーアは朝っぱらから真剣な様子で編み物に没頭していた。
ダマスから持ってきた編みかけのそれを仕上げてしまおうと躍起になっている。
そう――昨夜、宴が終わった後、寝台の中で考えたのだ。
(声を出したいなら、早く兄上達の服を仕上げてしまえばいいのよ!)
歌えないからと、グチグチしても仕方ない。
ようは自分がサッサとミッションコンプリートすればいい話。
悔し泣きなんてしてる場合じゃない。
ノーズハトゥザマーンに嫉妬なんて、お門違いもいいとこだ。
(頑張るんだから!)
ドニヤに監督を頼み、付きっきりで見てもらう。
そんなサフィーアを遠目に観察し「面白くない」と愚痴っているのは誰あろう、シャールカーンだ。
朝から全然相手をしてくれない寵姫に、ご機嫌斜め。
「サフィーア。熱心なところ悪いけど、一緒に政務所へ来てくれないかな?」