砂漠の夜の幻想奇談
昨日までだったら言えなかった言葉。
しかし、今はスッキリした気持ちで言うことができる。
不思議と気分は晴れやかだった。
(ノーズハトゥ姫…)
向き合って会話をして、ノーズハトゥの変化にサフィーアも気づいたようだ。
街でハシーシュを求めていた彼女とはどこか違うと。
(何かあったのかしら?ルステムの話を聞いて心配だったけど、大丈夫そうみたい)
ホッと胸を撫で下ろす。
「サフィーア姫と兄上の婚儀には、僕らがダマスへ飛んで行きますね。いつ頃の予定ですか?」
カンマカーンの何気ない問いに、シャールカーンとサフィーアは顔を見合わせた。
「さて、いつになるかな?」
(そういえば、カシェルダとバルマキーは大丈夫かしら…?)
コンスタンチノープル行きになった二人を思い出し、急に不安が押し寄せる。
(大丈夫よね)
サフィーアは軽く考えて余計な不安を心の隅に押しやった。
この後、バグダードに一週間ほど滞在したシャールカーン一行。
その間、サフィーアはノーズハトゥザマーンとすっかり仲良くなった。
出会った時と比べて、陰りが減ったノーズハトゥ。
帰り際にこっそりルステムが教えてくれた情報によると、彼女はあの日以来ハシーシュを欲しがらなくなったとのこと。
全ては良い方向へ向かっている。
後は流れ行く時間が心を癒してくれるだろう。