砂漠の夜の幻想奇談
何ともはや、またまた失敗。
心の中では悔しがるも、笑顔でカンマカーンの背後に控える。
ダマスへの帰路につくシャールカーン達の行列を王宮の門前で見送りながら「災厄の母」ダリラはここ最近のことを振り返った。
(やれやれ…。ノーズハトゥ様をけしかけるのはもう無理だねぇ)
ノーズハトゥの恋心を利用してサフィーアを消そうとしたが、失敗に終わった。
ハシーシュを与えて情緒不安定になったところを上手く言いなりにさせるつもりが、なかなかどうしてノーズハトゥも心が強い。
揺れはするものの、最終的には自分自身の意思で行動する。
(全く…。シャールカーン王子に対抗して、カンマカーン王子の婚約話を持ち掛けたのは我ながら良い計画だと思ったんだけどねぇ)
なんと王様は有ろう事かノーズハトゥザマーンを婚約者に指名した。
(あの女の孫なんて、お断りさね)
遠い過去を思い出し、唾を吐く。
ただでさえ血脈はカンマカーンに受け継がれているのだ。
これ以上「あの女」の血を混ぜるわけにはいかない。
「どうしたの?ダリラ。難しい顔をしてるよ?」
「いえ、何でもございませんよ。カンマカーン王子」
可愛い可愛いカンマカーン。
この子の未来を思えばこそ。
「災厄」は罪を重ねることを厭わない。