砂漠の夜の幻想奇談
第十三話:恋敵、現る
気分は上々。
砂漠の横断を終え、ダマスの街が見えてきた時、サフィーアの心は晴れ晴れとしていた。
バグダードにいた時はシャールカーンのことでモヤモヤしたり落ち込んだりしていたが、結局のところ寛大な年上の王子の発言に救われた。
――嫌うはずないだろう?怒って一人ツンツンしているサフィーアも含めて、全部好き
サラッと言われたが、サフィーアの胸にいつまでも響いた甘いセリフ。
そして、シャールカーンへの想いを自覚する。
今度求婚されたら真っ赤になって頷いてしまうだろう、と本人は確信していた。
「ふう、やっと到着か。いちいち徒歩でなど…。人間とはつくづく面倒な生き物だな」
街に入り、行列の正面に太守の屋敷が現れる。
サフィーアが乗るラクダを引きながらダハナシュが独り言を漏らした。