砂漠の夜の幻想奇談
「不在の間、何事もなかったか?」
門に入り居残り組だった召使達にシャールカーンが尋ねる。
ラクダから降りながらサフィーアもそちらに耳を傾けた。
「実は……」
一人の男奴隷が進み出て報告しようとした、まさにその時。
「あったぞ」
屋敷の入口から不機嫌そうなカシェルダが現れた。
(カシェルダ!戻って来てたのね!)
隣にダハナシュがいるから、今目の前にいるのは本物のカシェルダだ。
サフィーアは笑顔で護衛官に駆け寄った。
(カシェルダ!!)
「姫!?」
サフィーアに気づいたカシェルダが仏頂面をやめる。
彼から飛び出したのは切羽詰まったような声だった。
「サフィーア姫!ご無事で何よりです。バグダードに向かわれたと知った時は、このカシェルダ、心臓が止まるかと思いました…!」