砂漠の夜の幻想奇談

「テオドール…?」

振り返り、何と無く尾行する。

「王子?どうし――」

「しっ!」

声の大きいトルカシュを黙らせてテオドールの様子をうかがう。

彼は小柄な黒髪の青年と二人で近くの酒場に入っていった。


「トルカシュ、ついて来い」

「へ?え!?ちょっと王子!どこ行くんですか!?」

スタスタと歩き出すシャールカーンの後ろを、トルカシュが慌てて追いかける。

「そこの店にサフィーアの婚約者候補が入った。少し観察したい。彼がどんな男かをな」

言ってからシャールカーンは堂々と酒場に足を踏み入れた。

狭く小汚い店内を見回せば、窓際のテーブル席に例の二人が腰掛けているのを発見。

シャールカーンも少し離れた窓際席に座った。

彼らは酒を飲みに来たわけではないらしく、何やら真剣な面持ちでテーブルを睨んでいる。


(一体、何を…?)


より注意深く眺めると、答えがわかった。

彼らはチェスをしていた。







< 461 / 979 >

この作品をシェア

pagetop