砂漠の夜の幻想奇談
「テオドール…?」
振り返り、何と無く尾行する。
「王子?どうし――」
「しっ!」
声の大きいトルカシュを黙らせてテオドールの様子をうかがう。
彼は小柄な黒髪の青年と二人で近くの酒場に入っていった。
「トルカシュ、ついて来い」
「へ?え!?ちょっと王子!どこ行くんですか!?」
スタスタと歩き出すシャールカーンの後ろを、トルカシュが慌てて追いかける。
「そこの店にサフィーアの婚約者候補が入った。少し観察したい。彼がどんな男かをな」
言ってからシャールカーンは堂々と酒場に足を踏み入れた。
狭く小汚い店内を見回せば、窓際のテーブル席に例の二人が腰掛けているのを発見。
シャールカーンも少し離れた窓際席に座った。
彼らは酒を飲みに来たわけではないらしく、何やら真剣な面持ちでテーブルを睨んでいる。
(一体、何を…?)
より注意深く眺めると、答えがわかった。
彼らはチェスをしていた。