砂漠の夜の幻想奇談
「クイーンを白のキングの隣に」
「げっ…もう死んだ」
「チェックメイトだね」
白が負け、黒が勝った。
シャールカーン――否、テオドールの初勝利である。
「なんなのさ、王子様。出しゃばんないでよ」
「すまないね。つい」
ミロンの睨みにもシャールカーンは微笑みで対抗した。
テオドールはというと。
「師匠!!」
「え…?」
ガシッとシャールカーンの手を握り締める。
恋のライバルに対し彼は尊敬の眼差しを送った。
「師匠お願いです!僕にチェスの手ほどきを!!」
「え?あの…俺は君の敵だよ?明日は俺と勝負するんだよ?わかってるのかい?」
「師匠は師匠です!お願いします!今夜は徹夜でチェスの指導をお願いします!!」
「ほ、本気か…?」
瞳をキラキラさせて見上げてくるテオドールにシャールカーンは負けた。
この夜、伝達係のトルカシュだけ城に帰らせて、シャールカーンは騎士二人と酒場でチェスにのめり込んだ。