砂漠の夜の幻想奇談


「あなたを、思うたび

我が心は

砕かれて、揺られて

千々とはなりぬ」


歌いだしを聴いてサフィーアはピクリと反応した。


(この歌、前に歌ってくれた…!)


「恋の歌」と語っていた。

これならシャールカーンも完璧に歌いきるだろう。


「心の渇きを、癒す君よ

その輝く眼(マナコ)に

私を映してくれ

愛しさ募る

永久(トワ)に、切なくて」


多くの聴衆がうっとりと甘い歌声に耳を傾けていた時だった。


「もしも千の夜が――……」


そこでシャールカーンの声がピタリと止まった。


(シャール?)


驚いてサフィーアが目を瞬かせる。


「……千の夜が…千の…」


困ったような表情で同じ詩を繰り返すシャールカーンに、聴衆はざわついた。

リュートの伴奏が途切れる。


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