砂漠の夜の幻想奇談

「申し訳ございません。続きを忘れてしまいました」

片膝をつき、シャールカーンはその場で深く頭を下げた。

より一層、大きくなるざわめき。


(嘘!?忘れたなんて、そんな!?)


前にシャールカーンは「母上が教えて下さった歌だ」と話してくれた。

いくら勝負で緊張しているとは言え、そんな思い入れのある詩を彼が忘れたりするだろうか。


「続けられぬのか?ならばこの勝負、テオドールの勝ちとなるが」

「そうして頂いて、結構です」

アフリドニオス王にそう申し立てると、シャールカーンはテオドールに向き直った。

やはり驚いて目を見開いているライバルに向かって、不敵な笑みを浮かべる。


「馬上槍試合で決着をつけよう」


シャールカーンの言葉を受け、一瞬呆気に取られる。

だが三秒後、テオドールもまた不敵な笑みを返していた。

「はい!」


互いに一勝一敗。

泣いても笑っても次の勝負で決まる。


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