砂漠の夜の幻想奇談
「シャールカーン王子!!わざとですよね!?わざと忘れたとかおっしゃいましたよね!?」
勝負も終わり一同解散となると、すぐにトルカシュが主人のもとへ飛んできた。
サフィーアも同じタイミングでシャールカーンに駆け寄る。
(わざとなの!?)
きつい眼差しで問えば、シャールカーンは白状した。
「ああ。わざとだよ」
「なぜですか!?勝てたかも知れないんですよ!?」
トルカシュの意見に賛成なサフィーアが「うんうん」と首を縦に振る。
「まあ、確かにね。だけど…これで先に二勝しても素直に喜べないんだ」
理由がわからず、トルカシュとサフィーアが同時に首を傾げると…。
「男なら、喧嘩で勝ちたい」
「は?」
(え…?)
「槍試合、楽しみだな」
綺麗に微笑むシャールカーン。
皆、失念していた。
この王子は将軍志望の戦好きなのだ。
「王子、ただ馬上槍試合やりたいだけじゃないですか~!!!!」
大広間にトルカシュの情けない声が響く。
シャールカーンはニコニコと笑ってその大声を聞き流した。