砂漠の夜の幻想奇談
(うう~。シャール~!)
さてここに、晴れて自分の婚約者となった王子に近寄りたくても人の壁に阻まれて近寄れないお姫様がいた。
(むう…。もういいもん!)
女性達にキャーキャー言われているシャールカーンを見ているのが嫌になって、サフィーアは人だかりから離れた。
と、隅っこで木の長椅子に腰かけているテオドールを発見。
(テオドール…!)
サフィーアはパタパタと駆け寄った。
「あっ、サフィーア姫」
うなだれていたテオドールが顔を上げた。
身体に大きな怪我はないようだが、頬が異様に腫れている。
(ほっぺ…痛そう…)
そっとそっと、手を伸ばす。
優しく自分の頬を撫でるサフィーアを見つめながら、テオドールは悲しげに笑った。
「負けてしまいました」
乾いた声だった。
「姫の前ではいいところをお見せしたかったのに……ダメですね」
苦笑する彼は、自分の頬を撫でるサフィーアの手を取り口づけた。