砂漠の夜の幻想奇談
「さあ、シャールカーン殿のところへ」
少し強引に引き離して背中を押す。
彼女のため。
自分のため。
サフィーアは一度振り返ると、深く一礼してからシャールカーンの方へ歩き出した。
「姫……」
腫れた頬に涙が伝う。
「よしよし。よく頑張ったね。偉い偉い」
唐突に髪をグシャグシャ撫で回された。
「………ミロンですか」
「そ、正解。てか泣くなよ。男でしょ?」
「……男でも泣きたい時はあります」
「ま、確かにね」
ミロンは親友の顔を見ないようにして隣に座った。
「いいよ。今は。思いっ切り泣いてスッキリしちゃえ。なんならオレがハンカチ貸そうか?」
「遠慮します。僕には…」
懐から取り出したそれは、彼の大切な宝物。
「これがありますから」
初恋が詰まったハンカチをそっと撫で、テオドールは微笑んだ。