砂漠の夜の幻想奇談


 さて、シャールカーンのところへ再び戻ってきたものの、相変わらずの人だかり。


(越えられないわ…この壁)


ピョンピョン跳びはねてやっとシャールカーンの顔が見える。


(やっぱりまだ無理よ!)


ムスッとして人混みから一歩下がると、誰かに腕を引っ張られた。


(きゃっ!?)


「姫、こんな場所にいたら人に押し潰されますよ…!」

カシェルダだった。


(カシェルダ!?酷い怪我!)


上半身裸で至る所に包帯グルグル巻き状態の護衛官。

テオドールと違って全身打撲な上、切り傷もかなり多い。

これだけ負傷しておいて骨折していないのは流石と言うべきか。


サフィーアは手を引かれ、カシェルダが手当てを受けていた椅子に座らされた。

「彼に会いたいのなら、もうしばらくここでお待ち下さい。姫が今あの人垣を突破するのは無謀です」


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