砂漠の夜の幻想奇談
真面目な顔で忠告され、サフィーアは素直に従った。
が…。
(ピンピンしてる私が座るなんてダメよ!カシェルダが座って!)
一人掛けの丸椅子から立ち上がり、カシェルダが座れと手でアピール。
「姫、お気遣い感謝致しますが、私は大丈夫です」
(ダメ!絶対カシェルダ無理してるわ!)
クイッと軽く彼の腕を引いてみたら案の定、カシェルダは痛そうに顔を歪めた。
(ほら!座ってて)
「わ、わかりました!ですから引っ張らないで下さい…!」
かなり強引だったが座らせることに成功し、安堵の溜息をつくサフィーア。
その時、ふと気がついた。
(あら?カシェルダの腕に、傷痕が…)
包帯の隙間から覗く腕や肩などに無数の傷痕を発見。
どうやら古傷のようで、うっすらとしか見えないが妙に気になる。
(カシェルダは武官だから不思議じゃないけど…この傷痕……切り傷というよりも……)
「如何致しましたか?」
ジッと肌を見つめてくる姫に首を傾げるカシェルダ。
我に返ったサフィーアは今更ながら顔を赤らめた。
(はううっ!!わ、私、殿方の肌をじっくり見るなんて、はしたないことを…!!)
慌ててそっぽを向いたサフィーアの頭の中はパニックで真っ白だった。
それゆえ、もう彼の傷痕――鞭打たれたようなそれらの痕を気にかけはしなかった。