砂漠の夜の幻想奇談


 三十分くらい経過し、だいぶギャラリーの人数が減った。

人垣が先程の半分くらいになったところでサフィーアは再度挑戦を試みる。


(シャール~!)


少し後ろで護衛官がハラハラ見守る中、人混みの前へ出ることに成功。

目的の人物を見つめれば彼と視線が合った。

「サフィーア!やっと来てくれたね」

素晴らしく華やかな笑みを浮かべるシャールカーン。

本当に怪我をしているのか疑いたくなる笑顔だ。

「ほら、おいで」

腕を広げてサフィーアを誘ってくる。


(おいでって、この状況で…!?)


確かに傍に行きたかったのは事実だが、大勢の視線が集まる中で抱き着きたくはない。

モジモジ躊躇っていると、呆れた溜息をつきながらシャールカーンが腕を伸ばしてきた。


(きゃ!)


強引に引き寄せられ、右腕で抱きしめられる。

「イケナイ子だね。俺のところよりも先にテオドールのもとへ行くなんて」


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