砂漠の夜の幻想奇談

彼らの声を耳にしてシャールカーンがニヤリと口角を上げる。

ギュッとサフィーアを抱きしめ直し、笑顔で周囲の人々に宣言した。


「お姫様は俺の婚約者だよ」


そして、間を置かずして未来の花嫁に口づける。


「キャアアー!!」

「やっぱりかぁ」

「うああー!姫様の唇がぁ!!」

「イヤ~!シャールカーン様ぁ!!」


様々な声が飛んできた。


(シャール!?やめて~!恥ずかしいっ)


顔を真っ赤にさせて胸板を押すも、年上の彼は余裕そうに舌で唇を舐めてくる。

「周り気にしないで。俺を見てて」

そっと囁かれ、さらに深く求められた時だった。


「散れぇえー!!見世物ではない!!」


カシェルダの怒鳴り声が響いた。


(ふえっ!?どうしたの!?)


サフィーア同様、驚いてキスを止めるシャールカーン。

首を動かして見遣れば、怒りオーラ全開の護衛官が折れた槍を振り回してギャラリーを追い払っている真っ最中だった。

「カシェルダ、何やって……というかその槍どこから…?」

「拾ったんだ。それより貴様!正式に婚約者となったからって調子に乗るな!少し慎め!」

「ハァ…わかったよ。公開キスはアウトか」

名残惜しげにサフィーアを見つめるものの、ちゃっかりしている王子は「続きは今夜ね」と予約を取り付けたのだった。








< 530 / 979 >

この作品をシェア

pagetop