砂漠の夜の幻想奇談
彼らの声を耳にしてシャールカーンがニヤリと口角を上げる。
ギュッとサフィーアを抱きしめ直し、笑顔で周囲の人々に宣言した。
「お姫様は俺の婚約者だよ」
そして、間を置かずして未来の花嫁に口づける。
「キャアアー!!」
「やっぱりかぁ」
「うああー!姫様の唇がぁ!!」
「イヤ~!シャールカーン様ぁ!!」
様々な声が飛んできた。
(シャール!?やめて~!恥ずかしいっ)
顔を真っ赤にさせて胸板を押すも、年上の彼は余裕そうに舌で唇を舐めてくる。
「周り気にしないで。俺を見てて」
そっと囁かれ、さらに深く求められた時だった。
「散れぇえー!!見世物ではない!!」
カシェルダの怒鳴り声が響いた。
(ふえっ!?どうしたの!?)
サフィーア同様、驚いてキスを止めるシャールカーン。
首を動かして見遣れば、怒りオーラ全開の護衛官が折れた槍を振り回してギャラリーを追い払っている真っ最中だった。
「カシェルダ、何やって……というかその槍どこから…?」
「拾ったんだ。それより貴様!正式に婚約者となったからって調子に乗るな!少し慎め!」
「ハァ…わかったよ。公開キスはアウトか」
名残惜しげにサフィーアを見つめるものの、ちゃっかりしている王子は「続きは今夜ね」と予約を取り付けたのだった。