砂漠の夜の幻想奇談
薄暗くなった廊下を、蝋燭の明かりを頼りに歩く。
そして二人は突き当たりの小部屋に足を踏み入れた。
(ここよ。兄上達の絵があるの)
「ここかい?かなり暗いね」
晩餐後、サフィーアはシャールカーンを引っ張って、十二人の兄が描かれているモザイク画を見せるべく例の小部屋を訪れた。
(これこれ!)
持ってきた蝋燭を掲げ、窓際の壁を示す。
「あ、これか。ハハ、あまり似てないね」
バグダードへ行く途中、一度会ったきりだが、シャールカーンは彼らを思い出して苦笑した。
「サフィーアの兄上方か…。もう一度挨拶しに行こうかな。親戚になるわけだしね」
(親戚……)
なんだか、くすぐったい響きである。
サフィーアがにやけそうになった時、身体を優しく抱き寄せられた。
「サフィーア」
甘い吐息。
薔薇の香り。
シャールカーンの熱い体温、速い鼓動。
「皆の怪我が回復したらダマスへ戻ろう」