砂漠の夜の幻想奇談

甘えるように擦り寄り、ゆっくり頷く。

「本当は今すぐ飛んで返って式を挙げたいんだけど、身体がボロボロじゃあカッコ悪いからね」

肩の脱臼の他、シャールカーンも上半身の打撲や足の腫れなどの外傷がある。


(怪我してばかりね、シャール)


ついこの前、バキータにやられて大怪我を負った。

今回は婚約を賭けての勝負。


(どっちも、私のせい…)


罪悪感によりサフィーアの表情が曇る。

「どうした?サフィーア」

落ち込んでいる様子に気づき優しく問うも、サフィーアは顔を伏せて首を振るばかり。

そんな彼女を見て、しばし沈黙した後、シャールカーンは徐に歌い出した。


「あなたを、思うたび

我が心は

砕かれて、揺られて

千々とはなりぬ」


行き場のない恋心は貴女を想って苦しむ。


「心の渇きを、癒す君よ

その輝く眼(マナコ)に

私を映してくれ

愛しさ募る

永久(トワ)に、切なくて」


貴女こそ全て。

永遠に満たされぬ心よ。


「もしも千の夜があなたを

隠そうとも

この心は、永遠に

あなたに捧ぐ

夜明けを待ち続け」


貴女との出会いは奇跡。

また巡り会える時を待ち続ける。

たとえそれが、千年後であろうとも。



< 534 / 979 >

この作品をシェア

pagetop