砂漠の夜の幻想奇談
「サフィーア」
静かに呼ばれた名前。
夜の帳の静寂に、その響きは綺麗に溶ける。
「愛してる」
そっと黒髪を撫でながら紡ぐは、抑え切れない己の情熱。
持て余す欲望、恋情、嫉妬心。
――心の渇きを癒すのは、君だけ
「顔を見せて」
――その無垢な瞳に俺を映してくれ
頬に手をかけて上向かせれば、潤んだ瞳。
視線が絡んだ瞬間、本能は駆り立てる。
――俺のものに……
奪うようなキスを一つ、二つ。
か弱い抵抗など、押さえ込んでしまえばいい。
衝動的に強く抱きしめれば、サフィーアの手から蝋燭が落ちる。
石の床に当たり、火が消えた。
窓から見える白い月が唯一の明かり。
「…サフィーア」
そして告げる。
三度目のプロポーズ。
「俺と、添い遂げてくれないか」