砂漠の夜の幻想奇談
さて、それから数日経ち、ようやっと仕事に区切りがついたのを見計らってシャールカーンはバグダードの都に使者を送った。
結婚式には招待するとカンマカーンに約束していたため、知らせをやったのだ。
兄からの知らせが届いたカンマカーンは喜びを露わにして直ぐさま都を発ち、ダマスを目指した。
婚約者であるノーズハトゥザマーンはもちろん、彼女の母親、フェトナー様も一緒だ。
「何!?フェトナー様もいらっしゃったのか!?」
召使から報告を受けて大層驚いたのはシャールカーンだった。
王妹として、またシャールカーンの叔母として祝いに来てくれたらしい。
この日、宴のための手配をしていたシャールカーンは疲労感漂う表情で執務室の長椅子に寝っ転がった。
「ハァ…女性達の宴は華やかになりそうだな」
「まこと、おっしゃる通りで」
「どうしようか…。フェトナー様がいるんじゃ手抜きできない」
「手抜きをするおつもりでいらしたのですか?」
話し相手になっていたバルマキーは呆れた。
「長い婚礼の儀式を少しでも早く終わらせて花嫁と二人きりになりたい男心を察してくれバルマキー」
「はあ……そんなもんですかね」
だったら式などやらないで書類だけ認めればいいと思ったバルマキーだったが、挙げないのも嫌だと駄々を捏ねるシャールカーン。
なんとも我が儘な王子であった。